「BEASTARS」板垣巴留先生が特別審査員を務めた「第6回一点突破漫画賞」。
その審査会終了後、板垣先生に今回の審査を通して感じた事から、板垣先生自身の漫画制作の裏側まで、インタビュー形式で伺いました!
「漫画」に対するスタンスが徹底して格好良い、漫画愛溢れるインタビューは、漫画家志望者のみならず、全漫画ファン必見です!
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「コマを丁寧に紡いでちゃんと漫画を描いてないと、凄みって最終的には出ないものなんですよね」
◆全体を通してのイメージや、審査されてどうでしたか?
「一点突破」という賞なので、一個の要素に飛び抜けた作品とか、結構ぐちゃぐちゃな作品が読めるのかなと思ったんですけど、割と皆、良くも悪くも真面目だなーと感じる作品が多かったように思います。
もっと変態っぽいものとか、めちゃくちゃだなって思えるものはそんなになかった印象です。やっぱり割と今の子たちは「ほっこり」が好きなんですかね? でも変にキャラ萌えに走ってる作品はなくて、好感を持ちました。
◆もっと個性を解放してもいいと言うことでしょうか?
漫画家は真面目であるに越したことがないと思っているんです。締切を守らなくちゃいけないし、スケジュールというか、生活の自己管理能力とかも問われたりするし。根本は真面目であるべきなんですけど、根が真面目であればあるほど作品で暴れてほしいという気持ちがあって。それがやっぱり漫画家としてのかっこいい姿だなって私は思ってるので、作品でもっと暴れまわっていいと思います。それってすごく難しいんですけどね。
◆暴れている作品というのはどういう作品のことですか?
ただただ派手だったりセンセーショナルであればいいってことじゃなくて。もっと凄みを見せて欲しいというか。なんだろうな、衝撃だけじゃ足りなくて、そこに説得力があることで凄みになると私は思っていて。それってちゃんと漫画を描いて、コマを丁寧に紡いでいかないと最終的には成り立たないものなんですよね。だから大事なのは心に訴えかけることなんですかね…? 臭い言葉になっちゃうけどそこが大事な気がします。
やっぱり、読み心地がいいだけじゃ印象には残らないので「嫌~なものを見たな」でも最悪いいんですよ。寝る前に「あ~また思い出しちゃった」と思わせたら勝ちだし。
「自分に言い訳しながら描くようなページって、読者が遠のくのを感じます」
◆ご自身のデビューまではどんな形でしたか?
私は映画の仕事に就こうと思って美大で勉強して、でも結局映画は作品作り以上に人間力みたいなものを凄く試される創作だとわかって。でも、漫画だったら映画と似たようなものをペンと紙だけで一人でも作れると思い、そっちを目指すようになったんです。そして、短期集中連載、長期連載という流れで。
◆ご自身の初期の作品では一点突破漫画賞のように「これだけは見て欲しい!」というものを考えて描かれましたか?
えーっと、どうだったかな? でもそうですね…私の作品は動物の話なんで「今までこんな動物漫画なかっただろう!」みたいな、かなり強気というか。当時の私は実力に伴ってないくらいの自信を持っていたので、最初はそのくらいでいいと思うんですよね。「凄いの世に出ちゃうよ!?」くらいの感じで構えてたほうが。初期なんてそういう若い力で描いていくしかないし。読者はそれに魅せられるところはあるし「勢いあるなー」とか「この作家若いなー」って漫画から感じると私達も嬉しくなったりもするし。
◆「こういうのがみんな好きなんだろうなー」じゃなくて、「これを読んで震えろ!」という。
そうそう、「引っ張ってくから」みたいな気持ちで。ほんとそんな感じの方がいいと思います。痛い目に合うのはそれから後でも十分にあるので。作品を出す時はいくらでも上から行く気持ちであっていいと思いますね。そのくらい自分の作品に自信を持ってないとやれない仕事ではあるので。
でも持ち込みをして目の前で一人の編集さんに読まれてるっていう時間は、苦痛だったし恐ろしい時間でしたね。どんどんどんどん萎んでいくんですよね、自信が。読まれてる間に「あーなんか目が止まってるな」とか「なんか鼻かいたな」とか、読んでる間のちょっとした仕草が全部気になる。
私は絶対人のことを批判しない自分の姉にまず読ませました。そういう心の保険をちゃんと自分にかけてあげるっていうのは大事だと思います。自分を潰しちゃいけないんで。
◆いつ頃から読者を意識するようになったんですか?最初は「これが世に出るから見てねっ!」という感じで始まっていったと思うんですけど。
んーいつ頃からかはわからないんですけど、連載中、一気にアンケートが上がった回があって。最初の頃のネーム打ち合わせなんですが、私がまず考えたプロットを担当さんに説明して、それを聞いてもらうやり方だったんですけど。担当さんの反応がすごく良くて「あ、じゃそれでネーム描いてください」って言われて、そのままネーム描いてる時に、なんかわからないけど読者の視線を感じたというか、凄い読み手の存在を感じながら描けたんですよね。
それってやっぱり、「してやれた!」とか「伝わった!」っていう時にだけ起きる現象だと思います。自分に言い訳しながら描くようなページって、やっぱり読者が遠のくのを感じるし。手応えとか自信のある回は、早い段階で必要かもしれません。
やっぱり第一読者は担当さんなんです。今でもネームの返事の電話は凄い耳を研ぎ澄まして聴いてるし、その感覚はどれだけキャリア積んでても、もうずーっと持っていたいなって思いますね。
「結局漫画家も一人の孤独感はありはしますが、漫画って割と人と人で出来上がるものでもあるかなと思います」
◆今回の漫画賞投稿者の方々にメッセージを送るとしたら? 今はSNSで誰でも評価を得られる時代ですが、先生が担当さんの一言をすごく気にされていることにとても興味を持ちました。
やっぱりコンスタントに雑誌に載せて、世に晒されてるものを描いてるっていうのは結構特別というか、異質だなって私は思いたくて。
WEBって「悪いね」ってボタンがない以上、割とイージーに自己顕示欲だけ満たされてしまいやすいので、こうやってちゃんと作品を雑誌の賞に投稿してる時点で皆さんは素晴らしい!って私は思うんですよね。なので絶対みんなデビューして欲しいっていう気持ちがあります。
◆SNSってどうしても数字だけで判断されやすく、それのどこが良かったとか、どういうところが面白かったっていうのがわかりづらい部分もあります。
そうなんですよ!
そんなの真剣に講評コメントする人なんていないですからね。尊いだけでおわったりするし、そんなんどうでもいいんだよって感じだし。
いろんな言われ方することもあるかもしれませんが、編集さんたちだってプロの方々だから、そんな自分の個人的意見を押し付けたりしないし、喧嘩みたいな議論になる作品だったら、結局いい作品ではないんだよって思っていて。ちゃんと意見の交わし合いができるのがいい作品のネームの打ち合わせで、それが私は楽しいし、いい作品になりうるって信じているので。結局漫画家も一人の孤独感はありはしますが、漫画って割と人と人で出来上がるものでもあるかなと。なんかこの世の仕事全部そうだよなとも思いますが…。独りよがりにはならないようには気をつけなきゃいけないですね。
◆最後に一言よろしくお願いします。
やっぱり単行本になって自分の漫画で稼いだお金で生活するって、めちゃいい人生なんで、受賞者の皆さんにはその心意気のまま、是非担当さんとブラッシュアップしてデビューして欲しいです。今の時点で自分のこと偉い!と思っていいと思います。
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板垣先生、ありがとうございました!
板垣巴留先生が選んだ「第6回一点突破漫画賞」結果発表はコチラ!
⇓
http://itten-toppa.com/06result/
そして、板垣先生も激推しの準グランプリ受賞作「完全人脈宣言」は
WEB「ゼノン編集部」にて公開中!
⇓
https://comic-zenon.com/episode/13933686331630389899